経営者インタビュー ~社長の仕事とは~

日揮ホールディングス株式会社
副会長 川名 浩一 氏

社長が担う「企業価値の向上」

究極的には、トップとして、社会に役立つ、社会から期待される事業を行う「熱量」を上げていくことでしょう。即ち、企業価値の向上を目的にした仕組みとそれを成し遂げる文化や環境を作ることが社長の重要な仕事だと考えています。

社会から期待される企業は、他の企業には真似ができないような特別な「何か」を持っています。それを磨き上げて社会のニーズに応えていくことで、社会から「こういったことをやってくれるのはあそこしかない」と期待されるようになります。どこに自分たちの価値があるのかを考え、差別化し、競争力を高めていくことが肝要です。自分本位の技術をいくら高めても、社会のニーズに合っていないと役に立ちません。お客様や社会がこれからどのように変化し、何が求められるのか、それを知るためには外部から色々な知識を得て、ストーリーを作り上げることになります。そのストーリーを実現させる戦略は社長がリードし、社員一人一人それぞれがオーナーシップを持ち「自分ごと」として考えるようにするべきです。長期的な視点で、トップダウンとボトムアップ両方のシナジーがないとできないと思います。

そのようにして、企業価値が高まれば、投資家からの信頼も厚くなっていき、株価も上がっていくでしょう。そして、従業員の意識・給料も上がっていく。全てにおいて、正のスパイラルが生まれていくわけです。

四半期毎の決算という短期的なことだけではなく、永続的に企業価値を高めていくこと。人財や資本力、技術力を含め会社のあらゆる面を向上させることで、企業は社会の中で唯一の存在になっていくと思います。

ただ、経営はそれほど簡単なことではありません。日々様々な難題が発生します。組織の中で問題が起きることもありますし、自社を取り巻く環境に問題が起こることもあります。社長としてはその難題を突破するため、知力と胆力と周りに対する影響力を発揮し、英知を結集して最も効果的に解決していくことも重要になります。

長期を見据えるための「異分野からの学び」

まずは、お客様と関係を築いて新しい仕事を作り上げていくことですが、長期のことになると、おそらくお客様自身も確信を以て予測することは難しいと思います。例えば、社会がどのように変化し、顧客の嗜好や要求がどう変わっていくか。技術の進展や地政学的変化も意識しなければいけない。過去の歴史を学んだり、あらゆるジャンルの方から話を聞いたり、本を読んだりして、ようやく未来に向けての点と線が結ばれていきます。

社長は常に忙しいものです。大小様々な判断を連続的に行なう一方で、世界や社会を俯瞰し、長期の大きな戦略も考えねばなりません。次代の経営人材になるような人達には日常に埋没しないで、今から会社の全体最適を考え、進むべき方向を経営陣と共有しながら業務を進めることが求められます。経営幹部になるような方たちには意識して、一つ二つ高い目線で考える習慣を身につけてほしいと思います。JMI(JMAマネジメント・インステュチュート)においても、普段の業務では決して知りえない知見や、経験のできない体験、感動が得られるようなプログラムを期待しています。私が参加したGBL(グローバルビジネスリーダーコース、2004年)ではそれまで日常考えることのなかったビジョン、ミッションを、異業種や外部の人たちと徹底的に議論したことが、貴重な経験でした。実際、自分が社長になった時に「企業理念」という大きく難しいテーマに取り組むことができました。グローバルで通じる企業の土台となるミッション、ビジョンを作り出す原動力になったと感じます。あの研修がなかったら、新たな視点で取り組むことはできなかったでしょう。私は40代の時に、そういう問題意識を持つことができ、将来それをなんとか実現したいという想いを持ちました。こうした改革はなかなか一朝一夕にはできません。周りの理解や熱意を高めていかなくてはならないので、自分の想いをみんなに語りながら、仕掛けを作って変える。そういうプロセスが必要なんですね。気づきを与えて戴いたという意味でも本当にありがたかったです。

日本人に足りない「危機意識の醸成」と「胆力」

今日では、イノベーションのために他分野とのコラボレーションが必要になっていますし、サプライチェーンも大きく複雑になっています。自社のセグメントではない領域、例えば、海外の動きやアカデミックな分野については現役の社長の時には、なかなか理解が足りない部分でした。新聞やテレビ、本など様々な情報源はありますが、これからどのような機会と脅威が現れるかを自分の得意分野や経験、知識を超えて理解することは難しいものです。

グローバル経済においては、破壊的な競合会社が現れ、ゲームチェンジをしてくる可能性がいつでもあります。そういった脅威に対する危機感を深刻に捉えている日本の経営者は少ないと言われています。経営層の中で危機感を醸成しながら、いかに目を開かせ社内を奮い立たせるかは、経営者の役割だと思います。経営に参画しようとしている人たちがもう一歩二歩先を考え、健全な危機感が芽生えるようなプログラムも入れていただければと思います。

また、経営者としての胆力について冒頭触れましたが、胆力を身に着けるのも容易ではありません。私の場合、社内外の先輩や経営者から学びました。社外の経営者が経営危機時の立て直し役に抜擢され、「火中の栗を拾う」厳しい状況の中で、どんな苦労をされ、どう乗り越えたか、こういった経験談を聞き、自らの行動の羅針盤を形成したと言えます。

社内での経験では、今までどのプロジェクトでも、順風満帆だったことは一つもなく、どのプロジェクトも非常に大変でした。大変さの中で一つの目的のために、どうやってみんなを引っ張っていくか。先輩方が周囲との信頼関係を醸成してリーダーシップを発揮している姿を見ると、「上の立つものはこうあるべきだ」と実感して学ぶことができました。

将来が期待される社員に、大小様々な修羅場を経験させ、成功体験を積むチャレンジの機会を提供することが人財の成長を促します。上に立つものには「チャレンジさせる度量」「能力を見極める力」が必要になります。他人に任せず自分で済ませてしまったり、慣れているものに任せるほうが効率的なわけですが、それをあえてチャレンジできる若い部下に任せます。任せた部下が潰れてしまっては困りますので、もちろん上司としてケアをしっかりしながらストレッチして、チャレンジさせます。その際は「失敗しても、ここまでなら大丈夫」と見極めることも重要です。リスクはできれば定量化し、目に見える形にしてあげて、安心して思い切ってチャレンジできる環境を整備することが必要でしょう。

これからのリーダーに求められること

先ほど触れた、「胆力」などに加え、コミュニケーションの豊富さが要求されると思います。あらゆる階層とコミュニケーションが必要ですし、常に現場と心を通わせていく「現場力」があることもリーダーに求められる資質です。組織が多国籍になればなるほど暗黙知の経営は通じず、クリアなビジョンと戦略、システム、コミュニケーションが必須になります。

管理職になれば、意識的に「コミュニケーション力」を強くしていかないと、だんだん現場から離れてしまう可能性があります。現場で何が起こっていて、何が問題になっているのか。各部署で働いている方たちが何に困って、部長などの管理職が何を課題にしているかは経営において重要なヒントとなります。社員それぞれが様々な問題を抱えて、一生懸命やってくれているわけです。それら全てを把握することはできないけれども、上位者がその姿勢を示すことで、リスペクト&ケアの精神が浸透するだろうと思います。さらに、自身の経営観・事業観を社員にいかに腹落ちさせるか。自分は考えを伝えているつもりでも、組織内で正しく理解されているか分からないものです。だから、コミュニケーションの質と量は圧倒的に増やしていかねばならないと考えます。

その一方で、経営者には広い視点で社会全体を見ることも必要になります。そういうわけで、経営者にはマクロの「経営的視点」とミクロの「現場感覚」の両方が必要になるということなのでしょう。

個々の力が輝き、夢をもってチャレンジし、新しい価値を創造し続けることを、多くの日本人リーダーに期待したいと思います。

―ご略歴―
1982年 4月 日揮株式会社 入社
1997年 7月 アブダビ事務所長兼クウェート事務所長
2001年 7月 ロンドン事務所長
2004年 5月 営業統括本部プロジェクト事業推進本部 プロジェクト事業投資推進部長
2006年 7月 営業統括本部新事業推進本部長代行
2007年 8月 執行役員 営業統括本部新事業推進本部長
2009年 7月 常務取締役 営業統括本部長
2010年 6月 代表取締役副社長
2011年 6月 代表取締役社長
2017年 6月 取締役副会長
2018年 6月 副会長 (現職)
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