挑戦する経営者のリーダー論 ~経営者コラム~

日本レーザー 代表取締役会長
近藤 宣之 氏

こんどう・のぶゆき
1944年生まれ。慶応義塾大学工学部卒業後、日本電子株式会社入社。94年、子会社の株式会社日本レーザー代表取締役社長、2018年に同社代表取締役会長(CEO)に就任。第一回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」を受賞。著書に『社員に任せるから会社は進化する』(2018年、PHP研究所)、『社員を「大切にする」から黒字になる。「甘い」から赤字になる』(2018年、あさ出版)、『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』(2017年、ダイヤモンド社)、『ビジネスマンの君に伝えたい40のこと』(2012年、あさ出版)などがある。

「勇気ある選択が人も会社も成長させる『進化する日本型経営』」

「未踏の時代のリーダー論」(日本能率協会「編」:日本経済新聞出版社 出版より抜粋)

債務超過に陥った子会社の経営再建を果たし、以降25年間、黒字経営を続ける。
経営者としての覚悟と決意はどこにあったのか。
組織の「自己組織化」をもたらすものは何か──。
そして日本レーザーが実現する「進化する日本型経営」とは何か。

雇用維持こそ最大の安心

最近、働き方改革の推進と共に「人を大切にする経営」への関心がひときわ高まっています。しかし、現実は希望退職や人員削減のニュースは後を絶ちません。

企業は「ヒト・モノ・カネ・情報(技術)」の四要素から構成されているというのは誰もが知るところですが、ヒトを他の三要素と同列に扱う限り、カネのためのリストラは避けられないのも実情です。常に、ぶちあたる問題、つまり企業とは誰のものか──。
「企業とは働くことで得られる喜びの提供であり、そのために人を雇用し、雇用した以上は仕事を通じて成長するよう支援すること」と定義すれば、雇用が最大の課題であり、同時に社員とその家族にとっての幸せが第一となります。経営者の最大の責任とは、雇用を守ること。これは、私にとっての大きな決意と覚悟でした。

なぜ、このような思いに至ったか。

それは、私が28歳のときまで遡ります。

それは、一部上場企業の労組委員長に就任して間もない頃でした。一九七〇年代前半のドルショック、オイルショックで業績不振に陥ったため、左翼労組との競合を終焉させ、民主的労使関係を確立したばかりでした。しかし、1974年には正社員の三分の一にあたる1000人の人員整理を行ったのでした。体を張って会社を守ってきた年配者の組合員が、希望退職によって肩たたきにあう──これを阻止できなかった20代の私の無念さだけが残りました。

会社側は高配当・高株価を維持するために放漫経営続けてきた結果、存続が危ぶまれる事態に直面し、人員整理に追い込まれたのです。いまでも経営危機に陥った企業が人減らしのためのリストラを行い、それを行った経営者が評価され、株価が上がる。これは、大きな矛盾ではないでしょうか。そして、雇用を守るべき労働組合が希望退職を受け入れるのも、経営の失敗を赦すことになる。私は痛いほどに学んだのでした。いかに組合がしっかり対応しても雇用は守れないことを。

日本唯一のMEBOで独立

いま私が会長を務める日本レーザーは、役員と社員を合わせても60人余り、年商40億円ほどの小さな会社です。バブル崩壊後の一九九三年には債務超過となり主力銀行からも融資が受けられず、事実上経営破綻していました。そのときに再建のために親会社から私が派遣されたのです。レーザー機器の輸入専門商社であるため、為替や景気の変動に大きく振れ、また海外メーカーのM&A、国際情勢や世界経済の動向に影響される宿命でした。このとき、私は「リストラはしない。社員は辞めさせない」と宣言。徹底したトップダウンで再建に取り組み、一年目に黒字転換、二年目に累積赤字を一掃、そして現在に至るまでの25年間、黒字経営を続けてきています。

しかし、黒字経営は一筋縄で手に入れたものではありません。社員のモチベーションを上げるために就業規則を毎年改定し、大切にされていることを実感できる諸施策を展開しましたが、当事者意識を高めることには限界がありました。

これまでわが社は社長、会長、管理部長、監査役は親会社からの天下りが当然であり、実力がある社員でも役員や社長にはなれなかったのです。そこで、やる気のある社員は海外サプライヤーの輸入総代理店権を持って独立してしまう。その結果、私が社長に就任したことで、小さいレーザー輸入商社の業界でわが社出身の社長が16人もいました。

一方、私が子会社の社長定年年齢である六四歳で退任すれば、また素人の社長が天下ってくることが予定されていたのです。そうなると実力のある幹部が独立してしまう懸念がありました。

そこで私は、2007年に思い切って親会社から全株式を買い取る決断をしました。63歳の時でした。これは通常のMBO(Management Buy-out)ではなく、経営者と従業員が一緒になって株式を買い取るMEBO(Management and Employee Buy-out)と呼ばれる形態をとりました。当時の嘱託社員を含むすべての従業員が株主となる出資をし、自分たちだけで資金を調達して日本レーザーの株式を買い取ったのです。見事に成功し、15%以上の株式を所有する親会社も個人大株主もなく、ファンドも入っていない日本で唯一のMEBOの会社にしたのです。

親会社からの独立は、困ったときに頼るべきものがないことを意味します。こうして私をはじめ全社員が当事者意識を持って本気で取り組み、独自の経営を進めていく原動力となりました。いま思えば、勇気ある選択でした。その後入社した新入社員、転職者、嘱託社員や、パート・派遣から、正社員や嘱託社員になった会社員が出資しています。こうした資本政策を持つ会社は、「コーオウンド・ビジネス」(細川あつし著の同名書、2015年、築地書館刊参照)と言われます。米国では民間企業に働く勤労者の一〇%は、コーオウンド・ビジネスで働き、イギリスではGDPの四・五%がコーオウンド・ビジネスに依存していると言われます。日本であは、MEBO後も継続して常に全員が株主となっているのは、いまだにわが社だけです。

そして2018年、創立50周年を機に、初めて親会社で働いたことがない社長と交替しました。いまでは自己資本比率60%、無借金経営の企業になりました。

ダイバーシティは経営に必須

現在、わが社の最高年齢社員は72歳、私自身は75歳です。1995年の再建中に、すでに70歳雇用を実現しました。60歳定年で退職金を支払い、再雇用65歳まで7.5時間勤務、65歳の再々雇用で7時間勤務、70歳からは自由に働ける高齢者雇用を制度化しました。いまは、80歳までの生涯雇用を検討しています。また、パートタイマー、嘱託社員も65歳まで働き、希望する社員は70歳まで働けます。勤務時間も一応の目安としていますが、正社員、フルタイムの嘱託社員を問わず、労働時間は自分で随時変更が可能なので、正社員でも7時間勤務は多数います。

高齢者社員は職務を限定した個別契約であり、60歳以後の嘱託契約社員でも、評価制度に基づく総合評価と指導面接を制度化。そのため基本的に好きな仕事、慣れた仕事を継続して、生涯誇りを持って働き続けられるのです。実質的に生涯雇用を保証されている安心感から、社員は会社に、業績に貢献してくれています。

ダイバーシティ経営のすごさは、社員が異なった文化を持ち、仕事への態度が異なる結果、日本人の社員に大きなインパクトを与えていることです。

例えば、日本で修士を取得した中国・蘇州出身の女性は、日本人が嫌がる個人の営業成績の公表を積極的に望み、社外研修を受けるにあたっては、わが社の経営陣に入ることを目指すと全社会議で公言しました。また大連出身で日本に帰化した別の中国人女性は、日本人名の「○○美希」と改名して退職後に日本人として米国に留学し、MBAを取って活躍するなど、内向き傾向の日本人社員は男女共に圧倒されました。活力ある経営風土を醸成するには、こうした外国人社員の貢献は実に大きなものだと実感します。

もちろん、わが社は女性の活躍推進も行われ、管理職、幹部の登用もすでに30%を超えました。年功序列的な定昇制度もなく、徹底してフェアな実力主義を実現しています。生き生きと活躍できる職場を実現したため、男女共に他社への転職のための離職率はこの10年余りほぼゼロになっています。

さらに、大手企業で生き甲斐を見つけられずに転職してきた社員も多数いますが、何でも言い合える職場のため、「自己実現の舞台としての企業」と実感しているようです。

共に旅をする人を採用

わが社の基本的雇用方針は、「辞めたくない人を辞めさせることはしない」という生涯雇用を掲げています。ですから、採用活動はまさに真剣勝負です。常に職務を限定して募集し採用しますので、一括採用方式の日本企業が行う伝統的なものではありません。それだけに一人ひとりが、「一緒に旅をする運命にあるか」を判断して採用します。

また、採用した新社員の教育はまず社長(会長)が思いを伝え、理念を共有。そのうえで社外の研修や海外パートナーでの工場実習などへ派遣。海外出張や国内の研修機関での教育に、時間とお金をかけています。さらに一年間の大学院講座、人材塾などでの幹部や役員への教育を含めると、年間の教育研修費は売上高の1%、わが社の規模で3,100百万円になり、年間の接待交際費の5倍にもなります。生涯雇用のためには社員が生涯成長することが必要で、当然のことながら、社員が戦力として所期のパフォーマンスを発揮しない限り会社の成長は見込めません。

人間は、いくつになろうと成長し続けることができるのです。肉体的な成長、知識や技術面での成長、そして組織の管理者になったら部下の育成が必要になり、リーダーシップ、コミュニケーション力、集団を活性化させるといったスキルやノウハウを身につけることの成長。

さらに長じて50代、60代で経営幹部になったときに問われるのが「背中」です。その人の背中を見て「ついていこう」と皆が思ってくれるか。つまり人徳であり、人間としての成熟度が問われるようになるでしょう。まさに、社員の成長が企業の成長につながるのです。

それは、わが社のクレド(基本方針)にも明記しています。これはお客さまが目にするホームページ(会長からのメッセージ)に全文を掲載しています。お客さまに向かって、「うちでは社員満足のほうが優先です」という文言をホームページに掲載している企業はあまり見たことがありませんでしょう。

なぜ、わが社は明記したのか。答えは明快です。会社から大切にされているという実感のない社員が、どうして会社の顧客の満足を考えられるでしょうか。自分が提供する商品やサービスに誇りも、喜びも感じられない社員が、どうしてお客さまのことを第一に考えられるでしょうか。会社の同僚や上司、また経営者に対して、満足も感謝も仲間意識もない社員が会社の方針どおり、顧客満足第一を達成できるでしょうか。

近年、企業不祥事が後を絶ちませんが、品質データの改ざんをやりたくて手を染めている現場の社員がいるでしょうか。経営者や幹部が社員の幸せを願い、社員と家族の喜びや満足を第一に考えれば、社員はお客さまのことを第一に考えてくれるものなのです。社長が社員を第一に考え、社員はお客さまを第一に考え、お客さまは会社を大切にしてくださる。そうした循環が、ビジネスの基本だからこそ、トップは自らを律して経営をしていくべきだと考えます。

自己組織化がもたらすもの

社員全員が株主となり親会社から独立した後は、経営にも変化が起こりました。社会学の理論でいう「自己組織化」です。モチベーションの高い自己効力感を持つ社員が自律的に行動できるという、組織が追求する価値とビジョンを共有しました。さらに組織はピラミッド構成ではなく、フラット化し二~三人のグループでもメンバーが自主的に仕事を進める仕組みと条件を整備したのです。

東京工業大学名誉教授の今田高俊氏は、自己組織化の条件であるリーダー(社長)には、①創造的な個の営みを優先、②揺らぎを秩序の源泉とみなす、③不均衡および混沌(カオス)を排除しない、④コントロールセンターを認めない──この四点を実践する度量が求められると指摘しています。

現実の多くの経営者から見れば、こんなことはできるわけがないと批判されそうです。しかし、トップダウンの管理を弱め、マイクロマネジメントをしないだけでも、社員の意識は変わってきます。ここ数年、わが社は長年取引をしてきた海外の有力サプライヤーから総代理店契約を打ち切られ売上ダウンが続きました。ですが、自己効力感が高い社員の奮闘のおかげで新規ビジネスを導入でき、何とか黒字経営が継続できています。

実際、世界一四カ国からのサプライヤーや取引先一〇〇社余りをコントロールすることは、社長一人でできるものではありません。グローバルビジネスを展開するわが社にとって長年の黒字経営を維持できたのは、この自己組織化なくしては不可能だったと思っています。これを、私は「進化する日本型経営」と呼んでいます。そのうえ、長期的、全体性(ホールネス)も含めた満足度、幸福度を高めていくべきだと考えています。これを最近の研究では「ティール組織」と定義する人もいますが、ホールネス、つまり人生のすべてが会社と共に「Well being」であるという状態を目指すべきなのです。健康で、雇用も安定し、何よりも人生の安心感がある状態を意味します。

わが社では教育・研修・海外出張などを通じて、社員一人ひとりが高いレベルになることでセルフマネジメントの実践が行える。つまり、会社の存在目的や役割を認識したうえで、最適な資源配分で事業に取り組む。こうした組織になれば、後継者問題に悩むことはなくなるのです。

困難を乗り越える力が新ビジネスを生む

中小企業には企業存続に向け、大企業にはないメリットを有しています。それは社員も含めて「圧倒的な当事者意識」「健全な危機意識」、そして「共に生きていく仲間意識」という三つの意識を容易に持つことが可能なのです。

まず、困難な局面を打開するために、当事者意識を持つこと。これには「この会社や提供する商品やサービスは自分たちのものだ」という自覚が必要。大企業ではこうした実感は持ちにくいでしょう。

次に、常に健全な危機意識を持つことです。輸入専門商社とう業態は、良くも悪くも国際情勢の変化や為替の変動が業績に大きく影響する。業績にの悪化をビジネス環境のせいには決してしないで、工夫して受注・売上を増やす、コストダウンを進める。どんなビジネス環境下でも、何とかやっていけるという社内の確信がいまではあります。

そして、最後は仲間意識です。単に同僚や上司だけでなく、取引先やサプライヤー、また顧客とも連帯感を持ち、共に生きていくという仲間意識があれば不正行為はおこりません。突然の危機や難局に遭遇しても皆で知恵を出し合い、また「火事場の馬鹿力」を発揮して乗り切ってきています。

こうした意識を持って企業経営にあたれば、市場の構造変化に対応可能な経営戦略が生み出されます。これまで理科学・研究分野と産業分野の2つの市場で、レーザーを販促してきました。しかし、基礎科学への予算の減少と生産ラインの海外展開という荒波に経営環境は晒されています。従来のビジネスモデルに固執すれば、レーザー輸入商社としての存続は困難なのです。こうした共通認識をトップから社員まで全員が認識することができる。

そこで、次代に向けたビジネスを盤石なものにするため、がん治療への可能性を探っています。低コストのレーザー技術を応用したがん治療です。現在ドイツのがん治療用レーザーシステムメーカーと提携して、日本での実用化に取り組んでいます。2人に1人ががんに罹り、3人に1人ががんで亡くなる現状では、まさに社会的な使命だと思います。2019年には、このドイツ企業と合弁でがん治療を支援する会社を設立します。その社長には最年少取締役(43歳)を起用します。
「進化した日本的経営」とは生涯雇用を前提とし、これまでの日本人男性中心、学歴別、年次別、性別、国籍別を排して、多様な人財を採用していくことです。そのうえで個々の社員に向き合い、その事情に応じて多様な雇用契約、多様な待遇を実現すること。会社の都合を社員に押しつけるのではなく、社員の事情に応じて会社が仕事の進め方や働き方を工夫していくことで、社員とその家族の幸福度を上げる経営です。

もちろん赤字を出さずに、この理念を実現していくことは決して楽な道のりではありませんでした。しかし、あえて困難を受け入れ、狭き門をくぐってきたことで、結果的にはより大きな成長を得られたと実感しています。

昨今、進化する日本的経営に国内外を問わず関心を持ってくださる人が増えてきたことに大きな喜びを感じています。

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